既得権益が渦巻く建設業界へ、ITで真っ向勝負!シェルフィー呂氏「2度目」の挑戦
- 呂俊輝(ろい しゅんき)
- シェルフィー株式会社 代表取締役
1987年生まれ。2008年中央大学経済学部入学。在学中、ビジネスプランコンテストに優勝。大学3年の時、株式会社JapanMangaを設立。漫画の翻訳・電子アプリ化を手がけるも、2年半後に事業清算。その後、ピクスタ株式会社に入社。経営企画室リーダーに就任し、写真素材販売のプラットフォームサービスの運営に携わる。2014年6月10日、店舗オーナーと内装デザイン会社・施工会社を結び、最適なマッチングを提供するシェルフィー株式会社(最寄り駅:代官山)を創設。「建築業界に健全な競争環境をつくり、利用者の納得感を生み出す」をミッションに、建設業界の新たなステージへ向けて奮闘中。
目指すは、建設業界の大変革。ITを駆使し、健全なる競争社会へ
―店舗オーナーと、内装デザイン・施工業者との最適なマッチングを目的としたプラットフォームを提供するシェルフィーですが、建築業界からベンチャーを立ち上げるのは非常に難しいそうですね。呂さんはもともと起業志向があったそうですが、シェルフィー起業の経緯をお聞かせくださいますか?
高校1年生の時からずっと「起業ってカッコいいな!」って憧れていました。名だたるITベンチャー起業家が登場した時期でして、高校2~3年の2年間、ソフトバンクの孫正義さんを真似て、ニュージーランドへ留学したほどです。留学中もずっと、起業について勉強していました。
起業って、一般的には、今便利な物をさらに便利にするサービスを立ち上げることが多いですよね。でも私はそれよりも、もともとすごく不便で、でも人間社会には必要不可欠で、だからこそ市場規模も大きいけれど既得権益者の方もたくさんいるような……WEBを利用した新しい仕組みづくりや透明化が後回しになり、多くの人が困っている……そんな業界に挑んだほうが、カッコいいなって思えたんです。
WEB未浸透で、人間社会になくてはならない巨大市場。それが「建築」「医療」「農業」の3つでした。なかでも「建築」は今後、2020年のオリンピックに向けて最も必要とされる産業だと感じたんです。そこへ、思い切りぶつかっていこうと決めました。
―建設業といえば先ごろの「新国立競技場」の建設費問題が記憶に新しいですが、発注者とデザイナー、施工業者の間で、トラブルは多いのですか?
建築業界では、具体的な金額を含め、十分な情報が開示されているとは言えず、いわゆる“ぼったくり”が起きやすい仕組みになっているんです。
情報が少ないのでクライアントさんは1件1件、業者を回らなければならないし、建築の専門知識に乏しいと業者の言われるままになりがちです。施工中に想像していたデザインと相違があったりすると「言った」「言わない」の水掛け論になり、結局、「(ここまで進んでしまったし)あとには退けない」という事態が起きてしまう。しかも修正のため、さらに建設費が上乗せされ――と、「新国立競技場」と似たような問題が、実際にしょっちゅう起こっているんです。
もちろん、適正価格で素晴らしい仕事をしている業者さんもたくさんあります。でもその情報すら埋もれていて、まとまっていないのが現状なんです。
いい情報も悪い情報も、私たちが情報を一か所に集めて随時公開することで、建設業界に、健全な競争環境をつくりあげたいと思っています。
―表に出てきていない情報をすくい上げるのですから、相当、難しい面がありそうですね。
今まで多くの起業家たちが挑戦しては撤退した業界ですからね。各企業のITアレルギーも半端ないです。ですので、弊社はまずビジョンからお話しするようにしています。
これから建設業界はどうあるべきか、そのために弊社が得意とするWEBの技術を役立てたい。だから、勉強させていただきたい……と。一社一社と密な関係を持ち、信頼を築いていけるように心がけていますね。
―呂さんが仕事にやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?
まず、未来のことを考える時ですね!現在、日本全国でアクティブに動いている建設業者さんは3万社ほど。その情報をひとまとめにできたら、業界が一気に変わるはずなんです。そんな未来を考えると、ワクワクしますね。
あと、普通、マッチングサイトというのは、成果が目に見えないことがほとんどです。でも弊社の場合、成果が形になるんですよ。銀座の、博多もつ鍋屋さんを担当してオープンした時はスタッフみんなで行きましたね。ものづくりの「いいとこどり」ができる立ち位置にいるな、と感じています。
強い意欲のもと、成功するビジネスを考え続けた1度目の起業
―起業を目指す前に、呂さんがなりたかった職業はありますか?
何もありませんでした(笑)。小学生の時に早稲田大学に入るんだ!って思っていたくらいでしょうか……たぶん、親から「すごい大学だよ」って聞いていたからだと思います。結局、入学したのは、早稲田じゃなくて中央大学だったんですが(笑)。
―経済学部でしたね。やはりビジネスを学ぶために?
そうですね。それと、学生起業家を輩出している大学がいいなって思って調べたら『タダコピ(※)』の創業者である太田英基[おおた ひでき]さんが中央大卒だったこともあります。
―大学3年生の時に、1度目の起業をされていますね。
はい。在学中にビジネスプランコンテストというのがあって、そこで現在の『グルーポン』のような、クーポンサイト事業を打ちだしました。アメリカで流行していたのを、日本にいち早く取り入れれば成功すると思っていたんです。
で、実際にやろうと思っていたのですが、その前に本家『グルーポン』が日本で始まり、さらにリクルートさんの『ポンパレ』が現れて……。とてもじゃないけど勝てっこない。たとえ成功パターンがあっても、同じことをやろうとしたら学生は経営力でも資本力でも敵わないんだ、と悟りました。なら、差別化するしかないだろうと。
そこで注目したのが“法的に曖昧”なこと。それが「マンガの翻訳」と「電子アプリ化」で、それを事業に3年生の時株式会社JapanMangaを立ち上げました。曖昧なことは大手でもベンチャーでもやりたがらない。でももしこれを透明にできたら、うちが先行できる、と思ったのです。
まずは、日本の二次創作マンガの翻訳、電子アプリ化を目指しました。でも、事業を進めていくうちに、商業誌でも電子化のニーズがあることに気づきました。「これは透明な事業にしたい!」……そう、強く思うようになったんです。
社員の心が離れ、事業が失敗――打ちのめされた先に見えたもの
―JapanMangaは2年で事業精算、という形になりましたが……
起業するうえで大切なものは“事業”と“組織”の2つです。でも当時の私は“事業”のほうばかり目が向いていました。「どんなビジネスがもうかるだろう?」と、それしか考えていなかったんです。
4、5人のメンバーでやっていましたが、気づけばみんなと目線が合わなくなってしまいました。責任のなすりつけ合いや、仲間割れを起こして……それで、結局うまくいかず。“事業”と同じくらい、どういう“組織”をつくるかも重要なんだと、思い知らされましたね。
―その後は、ピクスタに入社されていますね。これはどういった理由があったのでしょう?
いろんな起業家の方にお会いしたのですが、そのなかでもピクスタの古俣さん(古俣大介[こまた だいすけ]氏/ピクスタ株式会社 代表取締役)が、一番魅力的でして。
JapanMangaを率いていた当時、私には“人に任せる力”が足りませんでした。何でも自分でやりたがっていたし、人に対して「なんでこんなこともできないんだ」ということを言いがちで。
いっぽう、古俣さんは、非常にピースフルな方で……振る舞いや態度に従業員みんなが魅かれていて、古俣さんのもとでひとつにまとまっていたんです。
僕は経営企画室というところに配属されました。古俣さんが直属の上司でしたから、古俣さんの“組織力”を、そばで見させていただきました。本当に勉強になりましたね。
―入社当初から、もう一度起業しようと考えてはいたのですか?
いつかは、と考えていましたが、何しろピクスタに入社する時点ではものすごく打ちのめされていましたから……自分に自信が全然なくて。あんな大変な思いをまたするのもつらいな……と思って就職の道を選んだようなものです。今思えば「逃げの就職」でしたね。
でも、ピクスタに入社してみたら思いのほか、成績を上げることができまして。「なんだ、やればできるじゃん!」と、半年で自信が急回復(笑)。やっぱりまた起業しようと考えるようになりました。
そこでどうせなら一番難しい業界である、建設業界に挑戦しようと思ったわけです。ピクスタには丸1年ほど、在籍していましたね。
―未知の業界では一歩を踏み出すのも難しいと思われます。何から始められましたか?
まずは同じ業界に長い間、ビジネスに携わっている方を味方につけるところから始めるべきだなと思いました。JapanMangaも、「もっとマンガの電子アプリ化を進めたい」と思っている人を見つけてから、一気に回り始めたんですよ。
知らないなら知らないで、いろんな方に会おうと電話やメール、SNSメッセージを駆使してアポを取って……と、積極的に動きましたね。
―1回目の起業と比べて、「ここは変われたな」と思うことはありますか?
社内の雰囲気がめちゃめちゃよくなりました(笑)。組織力を強くするため、人を採用する際は“建設業界に健全な競争環境をつくる”という「目的」をはっきりと伝え、それを目指せる人に集まってもらうようにしたんです。「目的」を達成するための「手段」は、その時々で最善のものをみんなで考えて選ぶようにしています。
あと、自分がムードメーカーにならなくていいというのも、とてもいいですね。前回は「自分が進んで元気を出さないといけない」という無理がどこかにありましたから……。 でも、今回は私以外にもムードメーカーがいますし、弱みを見せても問題のないメンバーばかりで。空元気しなくていいっていうのは、自分にとってプラスですね。
インターン生は積極的に受け入れる。その理由とメリットとは
―今後の、御社のビジョンがあればお聞かせください。
「建築業界×ITといえばシェルフィー」と、誰もがそう思える存在なりたいですね。はじめの一杯はビール、炭酸飲料といえばコーラ、くらいの(笑)。
―今後、求める人材像について教えてください。
3つあります。まず何より一番が、先ほど申し上げた「目的意識が共有できる」こと。会社が目指すところに対して、腹落ちしているかどうかです。 次に、「やる気がある」こと。そして「自分の頭で考えることができる」人。 スキルは問いません。なぜなら、“ゼロ”からのイノベーションを目指しているからです。
弊社にひとつ、社内ルールがあるんですけれど「今までこうしてたから、今回もこうしよう」って言ったら罰金1万円なんです! 常に、今の状態ですべき最適な手段、あるべき姿をゼロから考えられる風土を築くようにしています。
たとえその道のプロフェッショナルなスキル持っている方よりも、この3つを持ち合わせている方のほうが、弊社にとっては魅力的ですね。
―御社はインターン生を積極的に受け入れていますね。それは何か目的が?
2つあります。1つは、自分も学生時代にインターンという立場でいろんな方から多くのものを受け取ってきましたから、それを次の世代につなぎたいという気持ちからです。ですので絶対に、学生を搾取するような、使い倒すだけのインターンにはしません。
たとえ学生でも、任せられるような仕事は、できるだけ任せるようにしています。弊社がリスクを負うことにはなりますが、学生がその仕事を成功させた瞬間、先輩社員が「ピリッ」とするんですよね。いい刺激になるんです。
それと、もう1つ。学生をしっかりと教育すれば、そのぶん、きちんと会社に還元してくれます。こちらに教育力があればあるほど、会社にとって得るものがあるんです。でないと、ただの慈善事業になってしまいますからね。
実はその点は、うちの自慢でもありまして……社員に教えたがりが多いんですよ(笑)。このリソースは十分に生かしたいな、と思っています。それもまた、インターンを積極的に受け入れている理由ですね。
常に、自分の頭で考えて決めること。それがこれからに通じていく
―呂さんにとって“仕事”とはなんですか?
ずっと関わっていきたいものですね。これからも仕事中心で生きていきたいなと思っています。仕事の目的が、人生の目的……目指すゴールであり続けたいんです。それがズレるようなことは、絶対にしたくないですね。
―呂さんのように、起業を目指す人に向けて、何かアドバイスはありますか?
ひとりで始めたほうがいいと思います(笑)。たとえば居酒屋なんかで友人同士で盛り上がったその勢いのまま始めてしまうより、己に向き合いながら、孤独に始めたほうがいいと思うんです。そっちのほうが「起業の目的」=「人生の目的」になりやすいと思いますし。
それから起業の目的に落としこみ、それに共感できるメンバーを集めて……という順番のほうが、たとえ失敗したとしても納得感があるのではないでしょうか。
―それでは、これから社会に羽ばたく若い人へメッセージをお願いします。
今後、どんどん「やるべきこと」が増えてくると思います。そのためにはしっかりと自分の頭で、自分がやるべきことを考えていかなければなりません。逆に言えば、自分の頭で考えられている人だけが、やりたいことができる。そんな世の中にシフトしていっていると、強く感じています。
常日頃から、自分が何をしたいのか、何をすべきなのかを、できるだけひとりで。考え続けてくれたらな、と思います!
[取材・執筆・構成・撮影(インタビュー写真)]真田明日美