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未来の “普通” を築く立役者に、映像解析会社代表の天才ならざる生き方

株式会社フューチャースタンダード 鳥海哲史
鳥海 哲史(Satoshi Toriumi)
株式会社フューチャースタンダード 代表取締役

1983年生まれ、東京都葛飾区出身。東京理科大学 理工学部 物理学科、東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻を修了。2009年、シティグループ証券株式会社に入社。デイトレーダーとしてファシリテーション業務に携わる。2014年、在職中に株式会社フューチャースタンダードを創業。オンライン着せ替えツールなどを開発するなかでセルフィーカメラの制作に乗り出し、2015年にシティグループを退社。事業に専念する。現在は映像解析ツール『SCORER(スコアラー)』を使ったカメラソリューションを提供している。

株式会社フューチャースタンダード
[創立]2014年3月4日
[所在地]東京都文京区本郷4-37-17 本郷トーセイビル6階
[アクセス]東京メトロ丸ノ内線 / 都営地下鉄大江戸線 本郷三丁目駅から徒歩3分

※内容はすべて取材当時のものとなります。

今回のリーダーインタビューは、映像解析ツールを開発している株式会社フューチャースタンダード代表の鳥海哲史さんです。

大学院で地震を研究し、卒業後は金融のシティグループに入社。
トレーダーをしながら映像解析の会社を起業……と一見、何のつながりもない世界を渡り歩いてきました。

しかしそれは、将来的に “普通” となる未来に照準を合わせているから。
自分が天才肌ではないタイプだからこそできる生き方なのだと、鳥海さんは言います。

“フューチャースタンダード” を追い続ける、鳥海さんの人生とは。

リスクを適切に見極められる人が活躍する

――フューチャースタンダードの事業内容について教えてください。

『SCORER』という映像解析ツールを使ったシステムを提供しています。
車両検知や顔認証といった、アルゴリズムや算法を用いたAI(人工知能)ツールを誰でも手軽に、安く、自由に組み合わせて使えるようにしていて。
使いたいAIツールを選んだら、カメラを置いて映像をクラウドに送るだけ。
あとは自動的に分析が開始されるんです。

『SCORER』をカメラにインストールすれば、自動的に撮影データの映像解析が始まり、欲しい情報を可視化することができる。複雑な手順を必要としないので初心者でも扱いやすく、初期費用も最小限に抑えられるのが大きな特徴だ。

――『SCORER』はどのような目的で使われることが多いですか?

カメラを使ってやれることは人間が見てやれることですので、本当に多岐にわたりますね。
コンビニのような小売店でご利用いただくケースが多いです。
商圏調査といって、道路にカメラを設置して交通量や人通りを調べれば、出店や退店のタイミングを決める目安になります。

食料品メーカーでは、お菓子の焼き色を調べる目的で設置されたりもしました。
店内マーケティング調査としてカメラが使われることも多いです。

基本的には各自のご判断でシステムを導入いただいていますが、ご相談も承っています。
大量の人を見分ける、危険な場所を調査するといった人の限界を超えた領域をカバーできるのがカメラの利点ですから、それを活かせるようなご提案をすることが重要ですね。

――マーケットを把握するうえでAIでの映像解析は今後ますます重要になりそうですね。御社もどんどん事業を拡大されていくかと思いますが、どのような人材を求めていますか?

“リスクを考えられる人” が弊社に合っていると思います。
リスクを “取る” のではなく、“考えられる” 人です。

リスクとは航海に関するスペイン語で、切り立った険しい岩や海峡(risco)を意味します(※1)
つまりは先の見えにくい、危ない場所ということです。

(※1)イタリア語で “勇気をもって試してみる” を意味する「riscare」、アラビア語で “その日の糧を得る” を意味する「risq」など語源には諸説ある。

どんな状況でも伴うリスクですが、それを取ることは「思い切ってやる」という考えになりがちです。
通ろうとする海峡に霧がかかっていたり、嵐の中だったりしたら、そこを闇雲に突っ切ろうとしても当然ぶつかる可能性が高い。
そうした行動は正しいリスクの取り方ではありません。

リスクを考えられるというのは、状況を見極めて適切に処理ができる――ということ。
あらゆるケースを比較検討したうえで “やる” か “やらないか” の判断ができれば、エンジニアであろうとセールスであろうと、弊社ではどんな仕事でもフィッティングすると思います。

将来の夢は「マッドサイエンティスト」? 好奇心旺盛な少年時代

――鳥海さんの家庭環境について教えてください。

生まれは神奈川ですが、すぐに東京へ来ました。
ですので「生まれも育ちも葛飾柴又です」……って話しています(笑)。
父は会社の役員で、母は幼稚園の先生でした。兄弟はいません。

――パソコンがお好きなお父様の影響で、昔からパソコンに触れる機会が多かったとお聞きしました。

確かにパソコンが家にあったのは大きかったですね。
当時は現在のように使えるものではなく、ワープロに画面をつけたような原始的なもの。
でもだからこそ、かえって興味を惹きつけられた気がします。

「どうやって動いているんだろう」
「どんな仕組みになっているんだろう」

と考えながらパソコンをいじっていました。
自分の将来につながる大きなきっかけだったかもしれません。

――小さいころの夢はありましたか?

小学校の文集では “将来の夢” の欄に「マッドサイエンティスト」って書いていました(笑)。

今でもカメラをつくっていますし、ほかにも「水の交換がいらない加湿器をつくれたらいいなぁ」と考えることもあって……。
「マッド」というほど狂ってはいないけれど、ある意味では夢を叶えているといえるのかもしれないですね。

――どのような幼少期を過ごされましたか?

ごく一般的な男の子のように、ゲームとマンガで育ちましたよ。
小学校の時は『ドラえもん』や、家にあった『日本の歴史』マンガ全集を読んで。
外では友達とミニ四駆を動かして遊んでいました。

高校生の時は『シティハンター』が大好きでしたね。
バイクや車に興味を持つようになって、16歳でバイクの免許を取りました。
今でもずっとバイクに乗っています。
車も、サーキット場で走るようになるくらい。
そうして車が好きになってからは『頭文字D』を読む……とそんな流れになって(笑)。

――中学・高校時代はどのような学生でしたか?

高校が新宿と池袋の間にあり、ゲームセンターが多かったのでよく遊びに行きましたね。
『バーチャファイター』の世界チャンピオンが校内にいまして、よく彼らと戦った。
セガサターンやドリームキャストを修学旅行に持って行って、みんなで遊んだりしたこともあります。

でも実は運動も得意だったので、野球部やバレー部、陸上部に入っていたんですよ。
幅跳びは校内1位でした。
それなりに身軽だったんですよね……当時は(笑)。

――意外な一面ですね!

でも、そこまでスポーツにのめりこんでいたわけではありません。
やっぱりコンピュータをいじったり、バイクに乗ったりするほうが好きでしたね。

パソコンスクールで鍛えた分析力と交渉術が、事業発展のベースに

――アルバイトはされていましたか?

高校は池袋のファーストフード店で働いていまして、浪人・大学時代からどんどんバイトを増やしました。
家庭教師にパン工場、あとは個人でホームページの制作を請け負って。
長く続いたのはパソコンスクールですね。

スクールを運営していた社長が、もともと外資系コンサル会社のアクセンチュアにいた方でして。
当時もソフトウェアハウスとしてプログラムを開発する仕事をしていました。
WBS(Work Breakdown Structure)という構成図をつくってスクールスタッフのマネジメントをしていたり、タスク管理をしたりしている姿を見て、すごく刺激を受けたんです。

――のちのシティグループでのお仕事にもつながってきそうですね。

そうなんです。
ほかにもパソコンスクールではいろんなことを学びましたし、鍛えられました。
Excelなんて使ったことないのに「来週から生徒に教えてほしい」と言われ、テキストを渡された時は愕然としましたけど(笑)。

――レクチャーも研修もなしに、ですか?

えぇ、もういきなりです!
ひとつずつ全メニューを開いては「これはどうやって使うんだ?」と分析しながら、独学で覚えました。

パソコンいじりと同じで、物事を分析するのが好きなんですよ。
そうした積み重ねや姿勢は、今の事業やマーケティングにも活かされている気がします。

でも一番は “交渉力” が身についたことですね。
パソコンスクールには小学生からお年寄りまでいろんな人が学んでいるので、教える内容が同じでも人によって教え方を変えないといけない。
「では一緒にクリックしてみましょう! おばあちゃん、マウスを押してください」と言うと、本当にマウスを画面に押しつけちゃったりしますし……。

情報をただ伝えるだけでは、相手の理解が追いつかないこともあります。
生徒さんが疑問を抱えたまま進んで、結局あとのことすべてが分からないのであれば、それは教える側のミス。

特に自分は早口なので話し方のスピードに気を遣い、ジェスチャーや例え話を用いるようにしていました。

――リスクを海峡の渡り方になぞらえて伝えるなど、例え話を用いることで相手の理解を促す手法はこのころの経験が活きているんですね。

「人によって情報の伝え方を変える」というのは、相手を知って課題を見つけ、ゴールを定めるということ。
つまり “交渉力” なんですよね。
相手のことが分からないとこちらも強気に出られないですから。
まずは相手がどのような問題意識を持っているかを分析して、それをこちらから提案すると。

パソコンスクールで培った経験は、弊社の強みでもある交渉テクニックにつながっていると感じています。

トレーダーとして誰も知らない情報を見つける力を養う

――大学は東京理科大学の理工学部物理学科に入学、東大の大学院では理学系研究科にて地球惑星科学専攻を専攻されました。学部生の時に就職は考えなかったのでしょうか?

学部生の時に就活はしているんです。
でも大学院に行ったのは、仲のいい同級生に誘われたことと、就活するより試験を受けるほうが個人的に楽だったから(笑)。

その同級生が地震の研究をしていたので、同じ研究室に入ったんですよね。
緊急地震速報を解析する研究をしていました。

――卒業後は証券会社のシティグループに入社されています。理系の大学院出身であれば食品やメーカーの技術職や研究開発職という道も選択肢に入ると思いますが、金融業界を選ばれたのはどうしてですか?

学部生の時に一度就活していたおかげで、日本にどんな業界があるかは頭に入っていました。
それでコンサルや金融は、メーカーに入るよりおもしろそうだなと。
高給のイメージがあったのも確かです(笑)。

ただ金融そのものには興味がなかったので、IT部門に入りたいと思っていました。
ゴールドマン・サックスのIT部門でインターンをした時に、外資系のワーキングスタイルに魅力を感じて。
モルガン・スタンレーなど金融のIT部門はひと通りすべて受けましたね。

――なるほど。でも入社したシティではトレーダーをされていたようですが。

当時、シティのIT部門はインド人しか採用していなかったんです。
それで、面接を担当してくださった大学の先輩に「マーケット部門にトレーダーとして入社しては?」と提案されまして。
当時はデータを活かしたトレードをできる人がいなかったので、実務レベルで行える人材が欲しいと説明を受けました。

迷っていたら、面接の最後に「(研究対象の)地震と同じように株価も揺れるんだよ」と言われて。
「そっか、それはおもしろそうだな!」と入社の決め手になりました(笑)。

シティのトレーダーは、お客様から株を安く買って、利益が出るように高く売るというものです。
確かに株価は揺れるのでリスクはありますが、楽しかったですね。

でもまさか、内定をもらってからリーマン・ショックが起き、さらには入社して2年後に東日本大震災という本物の激震を味わうとは思っていませんでしたが……。

――トレーダーとしての経験を通じて学んだことはなんですか?

2つありまして、ひとつは先ほど話に出た「リスクの考え方」をこの時に学びました。
トレードは10回やって7回勝てばいいんですが、その代わりに1回を大きく負けてはならないのです。

過剰なリスクを取ったり思い込みが強くなってきたりすると、おおむね判断を間違える。
常に心をフラットな状態にしておくことが大切なんです。

もうひとつは「誰にも知られていない情報」を知ること。
大量のデータから誰よりも先んじて情報をつかみ、そこから立てた予測が当たれば、常に大きな儲けを出すことができます。

トレーダーの世界では、みんなが知っている情報に価値はありません。
みんなが知らず、かつ正しい情報が重宝されます。
簡単に見つけられるものではありませんが、それを検証できる情報はすでに転がっていたりします。

例えばイー・モバイルをソフトバンクの孫社長が買収する話が発表された時に、僕はイー・モバイルの株価が3倍になると見越して、株を買い上げました。

なぜそれができたかというと、孫さんが過去に手がけた買収の額をあらかじめ調べ上げていたからです。
ほかの企業よりべらぼうに高いんですよ。

だからあらかじめイー・モバイルの株を安く買っておけば、買収後に価格が跳ね上がると判断しました。
すでに転がっている正確な情報を集めることができれば、そういったシナリオが描けるわけです。

そして、そのシナリオをもとに勝負をかけるかどうか決めるのです。
7割しか当たりませんが、3割は損しても問題はないというわけです。

自分が立てたシナリオ通りになるか何度も検証するという過程は楽しいですし、何より反応がダイレクト。
そういった部分でやりがいに感じていました。

ツール開発の過程でカメラを自作、映像解析の世界へ

――シティ時代に起業されていますね。経緯をお聞かせください。

リーマン・ショックの影響でやれることがどんどん少なくなってきてしまって。
つまらないと感じるようになりました。

同時に新しい技術がどんどん生まれ、変化していく世のなかがおもしろく見えてきて。
「何かやるなら今なんじゃないか」と思えたんです。

――どうして画像解析の分野で事業を立ち上げようと考えたのですか?

もともとは服の着せかえをオンライン上で行うツールの開発に取り組んでいたんです。
ブルーバックにマネキンを置いて服を着せ、形を切り抜き、服を切り替えることで着せかえられるというものでした。
これを人間の体型に合わせることができたら、自分のイメージにあった服選びができるんじゃないかと。

けれど開発を始めて6年経ったころ、このツールにニーズがないことを知りました。
アパレルのECサイトで導入することをイメージしていましたが、彼らは利益率1%の世界で運営している。
なので新しい技術への投資をほとんど行わないのです。

同時に事業を転換することになった大きなきっかけがありました。
全身写真を撮影する時に自撮りすると腕が邪魔になるため、鏡に取りつけるカメラを自作したのです。
それがわりと、うまくできましてね。

そのカメラをベンチャーキャピタリストの和田さん(※2)がご覧になって、

(※2)インキュベイトファンド代表パートナーの和田圭祐さん。詳しくはこちら

「君はファッションよりもカメラをやったほうがいいんじゃないか」
「もしカメラをやるなら出資するよ」

とおっしゃって。
「それならお願いします!」と1週間後に会社に辞表を出し(笑)、こちらにフルコミットしたのです。

そうしてセルフィーカメラをつくったんですが、まったく同じカメラが他社から出てしまいました。

確かに、仕組みさえ同じならカメラなんてきっと他社がつくったほうが安くていいものができる。
それよりも、これからカメラがどんどん広がるとしたら何ができるかなと考えまして。
行き着いたのが映像解析の世界だったんです。

未来の “普通” を築く立役者でありたい

――「未来を変えたい」あるいは「自己実現したい」という目標を持って起業する人もいらっしゃると思うのですが、鳥海さんの場合、そうした志向ではないように感じます。

そうですね。
自分がどうありたいかというより、いずれ “普通” になるであろう未来に向けて自分を合わせていくほうがおもしろく感じるんですよ。

社名である「フューチャースタンダード」の由来がまさにそういうことでして。
未来でスタンダードになることを事業として展開したいのであって、自己実現や目標を達成したいわけではないんです。

もちろんスティーブ・ジョブズのように、世のなかには未来を変えていける天才はいます。
ただ、自分はそうじゃない。
よりよい未来をつくるのは天才に任せればよい。
自分はマーケティング寄りの人間なので、彼らが変えていく世のなかの動きを汲んでそのポジションを取る。
その立場から、未来の普通を築く “立役者” になって社会に貢献したいと考えています。

3Dスキャンや車の自動運転なども、これからどんどん「普通」になっていくでしょう。
そうした技術が使われる未来のために、今どんなことができるかと考えたほうが楽しい。
それが結果的にビジネスに結びついているという感じですね。

――これから起業したい、と考えている学生さんには、どんなアドバイスを送りたいですか?

ひと言で伝えるなら「起業なんかしちゃダメ」!(笑)

起業はそれ以外の選択肢が考えられない時にすべきことだと思うんです。
ただ漠然と「起業したいから」「社長になりたいから」という理由では、うまくいかないでしょう。

あらゆる可能性をつぶした上でする起業なら、もちろんやったほうがいいと思います。
起業のリスクが見極められるか、適切な視点を持つことも大事です。

いったん就職したほうが近道になることもあるでしょう。
とにかくまずは社会のルールを学び、戦える武器をそろえてからのほうがいいと僕は思います。

なぜ起業したいのか、その会社に就職したいのか、現時点で持ち合わせている知識をもとに判断して決める。
合わなければ辞めればいいだけの話ですから。
とはいえ、どんな仕事でもそれなりに合うものですよ。

――ありがとうございました。それでは最後にメッセージをお願いします。

ひとつひとつの物事に深く集中して、ある程度モノにしたら他のこともやってみて――。
とメリハリをつけた、ステンドグラスのような人生の送り方をしてもらえたら楽しいのではないでしょうか。

多様性が増している現在ですので、チャンスもいたるところに転がっていると思います。
ビビッドで彩り豊かな色を抱えた人は、きっとこれからの時代にハマっていくんじゃないかという気がします。

株式会社フューチャースタンダード
[創業]2014年3月4日
[所在地]東京都文京区本郷4-37-17 本郷トーセイビル6階
[アクセス]東京メトロ丸ノ内線 / 都営地下鉄大江戸線 本郷三丁目駅から徒歩3分

取材・文 / 真田明日美 撮影 / 岡山朋代

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