やめたい! だから、やり続ける。――動物たち、そして次世代の幸せのために

- 上野 歩美(うえの あゆみ)
- 公益社団法人アニマル・ドネーション 理事・プランナー
1983年、1月14日生まれ。東京都練馬区出身。学習院女子大学卒。新卒で株式会社エイチ・アイ・エスに入社。その後株式会社リクルートに転職し、海外旅行サイト「エイビーロード」の政府観光局PRの営業プランナー、「じゃらんリサーチセンター」のエリアプロデューサーとして国内行政を担当するなど、旅行業界に長く携わる。2011年に保護犬「茶太郎」を迎えたことをきっかけに日本の動物福祉に関する問題解決に目を開き、リクルート在職中の2013年よりプロボノとしてアニマル・ドネーションの取り組みに参画。 (アニマル・ドネーション本部 最寄り駅:外苑前)
ただ今絶賛子育て中。フリーで働きながら、ボランティアを続ける

―上野さんはHISやリクルートで旅行関係のお仕事をされていたそうですが、今は独立して動物保護活動を中心に働いていらっしゃるそうですね。
はい、公益社団法人アニマル・ドネーションという動物保護団体への支援事業の運営をしながら、動物福祉事業に関わる事業を受託する会社を起業し、現在は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンの仕事などを受託しています。
リクルートの「じゃらんリサーチセンター」に所属しているころから、アニドネはボランティアとしてずっと続けています。ピースウィンズでは本体の拠点が広島県であることから東京における企業連携担当として、企業へのプロジェクト提案・寄付支援の企画提案や、犬の譲渡事業に携わっています。
ただ1年前に出産し、現在子育てまっただ中なので、あまり以前のように朝から深夜までガッツリとは仕事ができません。ですので、今は最低限の限定した受託事業とアニドネのボランティアを中心に生活をしています。
―ピースウィンズはもともと、紛争や自然災害、貧困などで苦しむ人々を支援する団体ですね。
そうですね。実は2010年から災害救助犬を育成する「ピースワンコ・ジャパン」というプロジェクトを立ち上げていて、2012年からはピースウィンズの本拠地である広島を中心に犬の殺処分ゼロに力を入れています。
東京で企業と連携が取れる人間として、私が事業を受託している形です。
―アニマル・ドネーションの活動について教えてください。
動物福祉を目的とする団体を支援している、日本初のオンライン寄付サイトです。プロボノ(※)のボランティア組織で、2015年に公益社団法人となりました。
※プロボノ/今までのスキルや経験、専門知識を活かす形で行う社会貢献活動。ラテン語「pro bono publico(公共善のために)」の略。今では「オンライン寄付」ってもう当たり前ですけど、昔は寄付というと手数料のかかる銀行振込みがメインでしたし、いざ寄付をしたいと思ってもどこにすればいいかわからないという腰の重いものでした。
アニドネはそういったハードルを下げて「寄付文化」を広げながら、動物保護団体への支援を柱として活動しています。
私はアニドネのビジョンに共感し、支援をしていただく企業様を探したり、企業様には安心して支援をしていただき、カスタマー側には気軽に支援に参加していただけるような企画をご提案する仕事をしています。
―企業にも支援の輪が広がっているのですね。
社会貢献したいという企業様は多いのですが、数あるなかからひとつの団体にしぼって寄付するというと、どうしてもリスクが伴うので決済が下りづらいという問題がありました。
アニドネの場合、支援する団体を非常に厳しく審査していますので、そのなかから寄付したい団体を選ぶことも、均等に寄付していくことも可能です。
―今までNPO団体というとどんなことをしているのか、実態が見えづらいところがありましたから、支援先があらかじめ厳選されているのであれば寄付がとてもしやすいですね。
小さくてもがんばっている団体さんはたくさんいらっしゃいます。でも今までは、ユニセフや赤十字のような知名度の高い団体でもない限り、一般企業との接点は非常に少なかったですから、わかりづらいところはありましたよね。
それに、「動物保護」に関する団体って聞くと……ちょっと“暗い”というか、近づきがたいイメージってありませんか?
(下部へつづく)- 「アニマル・ドネーション」を支援しよう!
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『gooddo』はgooddo株式会社が運営する、社会貢献団体支援プラットフォームです。
支援は、誰でも、今すぐ、簡単にすることができます。上記ボタンより、記事で紹介した団体の支援サイトへ遷移します。
アクションを、より “ポジティブ” なものにするために

―確かに、動物保護活動というと殺処分とか絶滅、虐待といったネガティブな言葉が先に思い浮かびますし、ショッキングな映像がメディアでもたびたび報道されていますね。
どうしても「命」に関わるものですからね。だから動物保護団体って支援先として尻込みされやすいんです。
私はリクルートにいたころから、「動物保護=ネガティブなイメージを与える」という部分に、どうしても違和感がありました。衝撃的な映像を見て「何とかしなきゃ!」と行動を起こす方ももちろん中にはいますが、そういう方はもともと動物好きだったり、ある程度現状を理解している人がほとんどです。
でも、世の中は動物好きな人だけではもちろんありませんよね。ペットを殺処分するのだって「吠えたり噛んだりするから持ち込まれるんでしょ? 動物のほうに問題があるのでは?」と言う人もいます。
そうではなく、これはあくまで“人間側の問題”であり、“社会課題”としてきちんと認識されないといけない。そのためには、ショッキングな映像を流すだけでは、世の中に浸透していかないんです。
動物好きと、そうでもない方の意識の差は想像以上にものすごく大きいものです。そこからさらに「興味を持つ」→「アクションを起こす」という一歩を動かすのがどれだけ大変か……それを日々感じています。
でも興味を持ってくださる母数はとても多いので、そのうちのほんの1割でもアクションを促せたら社会は変わるはずです。ですから、私はもっと動物保護について“暗い”方向ではなく、もっと“ポジティブ”に発信したいと考えています。
「アクションしてね!」ってこちらからお願いするのでなく、世の中にどういった企画があれば、自然と参加したくなるのか。文字や言葉の拡散だけでは限界もあるので、リアルな接点をどのように持たせるかも、私たちの課題だと思っています。
★「アニマル・ドネーション」を支援する!★「まさかこんな足元で……」 途上国開発から動物福祉へと向けられた目

―ご経歴を見るに、上野さんはもともと海外の領域にご興味があったのですか?
はい。もともと国際開発に興味を持っていまして、大学のころからカンボジアへ日本語教師をしに行くなど、海外でボランティア活動をしていたんです。
そのなかで「彼らが日本語を活かせるように(観光業などで)雇用を生み出すまでが、教えた私たちの責任だ!」と強く思うようになりました。そのためにも、日本人をもっと海外に送るべきだろうと思って、海外旅行の仕事を選んだんです。
リクルートで「エイビーロード」という旅行サイトの営業プランナーとして働きました。国際開発は半ば使命のように感じていたので貧困国に対しもっとアクションがしたかったのですが、実際仕事をしながらですと、なかなかそうもいきませんでした。
日本にいながら、自分の手で動かせることはないだろうか? そう考えながら5年半くらい働いたある時から、転職や自分の今のスキルについて振り返るようになりました。海外に対し、今自分はどうしたいのだろう? と。
そこで思い切ってリクルートを一度退職してカンボジアに向かいました。行ってみて、それでも雇用の創出をと変わらず強く思うなら、それにしぼってやっていこうと。
そうしてカンボジアに戻って過ごしてみたら……10年前に行った時の印象と、だいぶ違っていたんですね。自分がどう成長してきたのか、何を忘れていたのかというのをすべて再確認しました。
日本に帰国をして、リクルートとパートナー契約を結ぶ形で「じゃらんリサーチセンター」で国内の行政と地域活性に関わる仕事をしました。県や市町村の方と、観光を主にした地域活性イベントやプロモーションを企画提案するお仕事です。それを2014年3月までしていました。
―そのようななか、どのようなきっかけで動物保護活動を始められたのですか?
2011年の東日本大震災の年に父が亡くなり、保護犬を迎えてみようということになったんです。昔から私も家族も動物が大好きで、小さい時から猫を拾ってきては家族に迎えていて。犬もいつか家族に!と思っていたんです。
そうして動物保護団体さんを通してうちにやってきたのが、保護犬の「茶太郎」です。

茶太郎を迎えたことをきっかけに、保護犬のことにもさらに興味を持って、いろいろ調べてみました。調べていくうちに、日本のペット社会があまりにもひどく、悲惨な現状であることを知ってしまったんです。
当時年間で約10万頭以上の犬猫たちが殺処分されていること、どんどん売るために無理な交配をさせられていること、劣悪な環境下でボロボロになりながら繁殖させられている犬猫たちがいること、勝手な都合で捨てる人もいれば、事情があり泣く泣く処分場にペットを持ち込む人もいるということ……。
私は今まで、途上国にしか目が向いていませんでした。でもまさか日本国内のこんな足元に、先進国とは思えない状態のものがあるのかと知って、すごくショックを受けたんです。
それがきっかけで「動物ために何かしたい!」とあちこちで声を上げていたところ、リクルートの上司から西平(西平 衣里[にしひら えり]氏/アニマル・ドネーション代表)をご紹介いただいたんですよ。西平もリクルート出身ですが、それまでまったく面識はありませんでした。
そのようないきさつで、リクルートの仕事とアニドネのこととダブルでやっていたのですが、だんだんかけもちがパワー的に難しくなってしまって。結果として、こちらのほうにどっぷりつかっちゃいました(笑)。
―リクルートでの経験も、今にとても活かされていそうですね。
もう完全にそうです。今の私のスキルはすべてリクルートから学びました。
動物の問題を解決するには、行政、民間、一般人、非営利団体と、様々なステークホルダー(利害関係者)へのアプローチが必要になるので、リクルートで培ったスキルは私の大きな武器になっています。
★「アニマル・ドネーション」を支援する!★日本社会に浸透すべき “アニマルウェルフェア” の概念

―小池百合子東京都知事が「2020年までに殺処分ゼロ」を公約とするなど、昨今ペットや動物保護に対して日本全体が関心を持ち始めていると感じています。現状を踏まえ、今後動物をめぐる日本社会はどうなっていくべきだと思いますか?
殺処分や衝動買いを促すペットショップの問題が蔓延し、日本は欧米と比べ「動物愛護後進国」と言われます。
でもだからといって、欧米のやり方をそのまま日本に当てはめればいいのかといったらそうでもないんです。日本で殺処分する時は主にガス室で窒息死させますが、ドイツでは銃を使って殺処分しているし、安楽死も認めていますから。
ただ、これだけは日本に取り入れるべきだというものがあって。それは“アニマルウェルフェア(Animal Welfare)”を根付かせることです。
アニマルウェルフェアとは世界的に定められている「5つの自由(※)」の考え方に沿った概念、倫理観のことで、動物本来の幸せや生き方を尊重するものです。
※EUが定めた、守られるべき動物の自由。「飢えや乾きからの自由」・「痛み、負傷、病気からの自由」・「恐怖や抑圧からの自由」・「不快からの自由」・「自然な行動をする自由」(参考:一般社団法人 日本アニマルウェルネス協会)アニマルウェルフェアが浸透している国であれば、悪質な繁殖や販売などは絶対に継続できない行為です。また、こうして情報がたくさん流れている時代にも関わらずペットショップに足を運ぶ人はいますから、まずはアニマルウェルフェアに則った法改正・業者規制をしていくべきだと思っています。
こういった流通の規制と、保護犬猫の認知と譲渡の促進。流通だけ規制しても、たぶん保護犬は減りません。ペットは一度飼ったら最期まで責任もって飼うのが基本ですが、そうもいかない現実がどうしても出てくるからです。
ですからもし飼えなくなった時に、どうやったら第二の犬生、猫生を幸せなものにしてあげられるか。その仕組みを整えていくべきだと思います。
そうするには個々の団体の活動だけでは難しいので、一人ひとり、お互いのスキルを発揮し合い、掛け算式に相乗効果を出す必要があります。私もこのアニドネやピースウィンズで自分のスキルを活かしていければと思っています。
★「アニマル・ドネーション」を支援する!★“やめたい” から、続けられる!――社会課題解決を原動力とする生き方

私はどんな状況になっても、1分でも絶対に活動をやり続けることが大事だって思っています。
一度「やるんだ」って公言したからには最後までやりたいと思いますし、たぶん1度辞めたら一生やらないと思うんです。楽しいことではないですから。できればこんな活動、なくなってほしいって思っています。
今こうして学生さんや若い方が記事を読んでくださっていると思いますが、我々大人が起こした問題を今の若い人たち、私たちの子どもたちに引き継いでしまうってすごく恥ずかしい話ですし、申し訳ないって思います。
なるべく早くこの活動をする人を減らして、なくして。「昔はこんな活動していたよね」「ペットが殺される時代なんてあったんだ」と話せる日が早く来ればいいなと思っています。解決することがゴールでもありますから。
―「やめたい」という気持ちが、上野さんの活動の原動力なんですね。
私も早くこの問題をなくして、好きなことや楽しいことをやりたいですし(笑)。それに子育てだけに集中していると社会との接点がどうしても薄くなってしまいますので、今ががんばり時ですね。
―最後に、若い人へメッセージをいただけますでしょうか。
ひとつでもいいので、自分のなかで気になる社会課題のテーマを設定してほしいなと思っています。それによって、世界の見え方が一気に変わってきておもしろいですよ。私はこの活動していてとてもよかったと思っています。
ただ私なりに後悔していることがあって。もっと学生のうちに、もっと人に会っておけばよかったと思っているんです。
社会人って忙しさにかまけて、どんどん視野が狭くなるんです。今の自分に必要なことを……と無意識に情報や接点を狭めてしまっています。それを今、すごく実感しています。
だから時間のある学生のうちに人に会って、視野をどんどん広げて、広げて、広げきってほしいです。思いついたことはどんどんアクションして挑戦していってほしい。そうすることで自分の未来の可能性を何倍にも広げていけると思います。
「キモチをカタチに」。アニドネのキャッチフレーズでもあるその言葉を忘れずに、私もこれからもより良い社会のためにアクションをしていきたいと思います。

- 「アニマル・ドネーション」を支援しよう!
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『gooddo』はgooddo株式会社が運営する、社会貢献団体支援プラットフォームです。
支援は、誰でも、今すぐ、簡単にすることができます。上記ボタンより、記事で紹介した団体の支援サイトへ遷移します。
[取材・執筆・構成・撮影(インタビュー写真)]真田明日美 [茶太郎くん写真(上野さん提供)撮影]ケニア・ドイ