DeNAからトレンダーズを経て、男性情報WEBマガジン『JION』を立ち上げた成井五久実の起業ストーリー
- 成井 五久実(なるい いくみ)
- 株式会社JION 代表取締役CEO
1987年福島県生まれ。2010年に東京女子大学心理学科を卒業後、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。広告ビジネス部で営業を経験する。2013年にトレンダーズ株式会社へ転職し、女性マーケティング・PRの企画営業を担当。 2014年にアプリクライアント専門のPR戦略を担う「アプリPR戦略室」室長として新規顧客を開拓する。トレンダーズ初のインキュベーションラボ「BLT -Between Life n Tech」にてエバンジェリストとして新規サービス『Anny(アニー)』の普及活動を行う。2016年3月より株式会社JIONを設立。情報サイト運営、広告代理店業、PRコンサルティングを行う。 (株式会社JION 最寄り駅:原宿・明治神宮)
男性のためのトレンドメディア『JION』とは?
―成井さんの現在の仕事内容を教えてください。
2016年3月から男性向けのキュレーションメディア『JION』を運営しています。アラサー、アラフォー男性向けのメディアです。
『JION』の特徴としては、ライターが全員女性で、女性の視点で男性にトレンドを届けています。男性は、女性の本音を知る機会があまりないので、その情報を『JION』では発信しています。
―『JION』というネーミングの由来は何ですか?
男性が親しみを持ってもらえるような名前にしたいと思っていたんですね。そこで、ターゲットにあたる年代の男性が好きな『機動戦士ガンダム』にちなんで命名したんです(笑)。登場人物のシャア・アズナブルが所属している“ジオン公国軍”からついています。
さらに、父が起業家で会社名に“J”がついているんですね。その父の影響もあって、自分が起業するなら同じように“J“を頭文字にしたいと思っていて……。“ジオン公国軍”の頭文字って本当は”G“なのですが、そこであえて”J”に変えたという背景があります(笑)。
―なるほど。では、そのような背景もあって『JION』を立ち上げた成井さんですが、現在の仕事のやりがいは何ですか?
世の中に男性向けのメディアがあまり存在していない中で『JION』のPV(ページビュー)が伸びて認知が大きくなることがやりがいです。
そのためにもスタッフが一丸となって記事を配信し、総力戦でPVを伸ばしています。男性の皆さんに「楽しいメディアだね」と言ってもらえる時が一番嬉しいですね。
DeNA、トレンダーズの経験によって確立した起業家への道
―DeNAではどのような仕事をされていたのですか?
『mobage(モバゲー)』広告を販売する営業を担当していました。 2010年に新卒でDeNAに入社したものの、50人中に女性が5人しか女性がいなくて、しかも一流大学出身者ばかりだったんです。結果を残して活躍しないと、自分のやりたい仕事がなかなかまわってこない環境でもありました。
社員一人ひとりが「与えられた仕事に関して、成果を残す」というベンチャースピリッツが浸透している会社で、“結果を残す”という部分はとても意識しましたね。
―トレンダーズではいかがでしたか?
2013年に営業職で転職して、化粧品や食品など、女性向けの商品を持つ広告主のPRや広告プロモーションを担当しました。
DeNAでは営業の仕事も『mobage』という大きな媒体力に助けられてクライアントから仕事をいただけていたんです。
でも、その当時トレンダーズは認知度の高いメディアを持っていないので、営業本人の企画力で仕事を取ってこないといけない。時には、大手の広告代理店とのコンペにも勝たなければいけなかったので、“自分”というキャラクターをどれだけ信頼してもらえるかがカギでした。同じ営業職でも環境が違うと、アプローチの仕方も変わるのだというのが興味深かったですね。
起業前の6年目の時に、ソーシャルギフトサービス『Anny』の新規事業に携わって、営業以外のメディアを立ち上げるノウハウ等を学んで独立したんです。
女性が男性のために情報発信する、『JION』の今後
―『JION』をリリースするまでの経緯を教えてください。
女性マーケティングに携わっていたこともあり、まわりの男性から女性に関する恋愛、ギフトに関する相談をされることが多かったんです。
例えば、「女性が喜ぶハンドクリームのブランドは?」など。そこで、世の中には男性が女性に関する情報を集める場所がないんだと気づきました。そこでJIONのコンセプトを思いつき、コンテンツの構想を固めていきました。
―メディア『JION』は、今後どのような役割のメディアとして発展させていきたいですか?
男性が女性にアプローチをする時のサポートができるメディアでありたいですね。今後はWEBメディア以外にも、新しく男性の役に立つ新規事業を2つはじめます。
1つ目は、サプライズ事業。男性が女性に対してサプライズを計画・実行するまでのお手伝いをします。
2つ目はEC事業です。現在、第一弾として男性がホワイトデーに贈る「お返し」として、女性が喜ぶアクセサリーを企画・プロデュースしています。
このように、メディアでありながら、今後はリアルな世界でも男性をサポートしていくのが『JION』の役割だと思っています。
―成井さんが、今までで苦労したことを挙げるとしたら何でしょうか?
「やりたいことをやるには、まず目の前に与えられた仕事を完璧にこなすしかない」と悟った時期があります。ある時期、なかなか営業で数字が取れなくて「本当は営業に行きたかったわけではないのに」「本当は新規事業部に行きたいのに」と心の葛藤に苦しんでいました。
でもそれは、目の前の自分のできない仕事を棚に上げているのと同じ。社会人としてお給料をもらっているということは、プロとして決められたことをやらなければいけないので、まずは自分のやるべきことをやらないと未来はないんだと思い直したんです。
すでに起業して第一線で活躍されている先輩から 「起業を志す人間が、会社から与えられた目標を達成できないなら起業なんて絶対にできない。人並み以上の幸せを手に入れたいなら、人並み以上に努力して当たり前」 「大義名分を持って、世界に向けて新しい会社を立ち上げようとしている人間が、通常の業務を充分にできないようでは、成し遂げられるわけがない」 ……と、そんなふうに叱咤されたんです(笑)。
それを期に、目の前にあることに全力で取り組むようになりましたね。営業として、たくさんのお客さんにアポイントをとる、熱のこもった企画を提案をするという基本的なことを徹底して行い、毎日深夜まで会社の机にかじりついて仕事をしました。
それから営業成績を7か月連続で達成し続け、社内でMVPを獲得し、起業に向けたさらなる一歩として、新規事業への異動が叶ったんです。
―営業職として、どのように仕事をされていたのですか?
化粧品やアパレルブランドなど、女性向けの商品を持つ広告主様の広告・PRに関する企画営業をしていました。
たとえば、ある化粧品会社のスキンケア用品を販売するためには、ターゲットの女性にどのようなキャッチコピーが刺さるか、どのようなメディア掲載すればたくさんの人に興味を持ってもらえるか戦略を自由に考え、提案をします。
そうやって既存のパッケージ化された広告メニューを提案するのではなく、一から自分で企画を考え、形にする仕事をしていました。このような経験から、現在のコンテンツマーケィングと言われる企画力や行動力に磨きをかけられたのは自分にとって大きかったですね。
大学時代をどう過ごすか……自分の行く先を決める、大事な時期。
―学生時代はどのようなことに注力されていましたか?
大学2年生から、東京大学の起業サークルに入っていました。大学入学を機会に福島から上京してきて、最初の1年は東京生活を謳歌していました(笑)。でも、2年生になった時に「自分の将来のために使う時間」にしようと考えたんです。
同じ気持ちを持った仲間と出会うことができましたし、大学時代に起業をする先輩たちもいて、自分にとって“起業”がよりリアルになった時期でもあります。
―起業サークルでは、どのような活動をされていたのですか?
フリーペーパーを作っていましたね。TNK(東大起業サークル)の『VISTA(ビスタ)』というプロジェクトでは、主に世界で起こっている社会問題を大学生の視点で情報発信していました。
大学4年生の時には『CLOVER(クローバー)』というフリーペーパーを発行していました。女子大生が作る、女子大生のための雑誌で、自分の夢や今の『JION』につながるきっかけとなった活動でした。
―その活動から、どのようなことを学びましたか?
何もないところから自分たちで企画をする“0から1を起こす作業”を体験しましたね。私とって初めてのメディアとの関わりでしたし、仲間を集めてゴールに向かうことは、今の仕事につながっています。
―そのような学生生活のなかで、アルバイトはされていましたか?
はい。大学1年生の時、表参道のイタリアンで接客の仕事をしていました。でも、実際にやってみたら、まったく自分に向いていないことがわかったんです。お客さまのご要望にうまく対応できず、失敗ばかり。ショックを受けた記憶があります(笑)。
大学2年生になったころは、テレアポの営業のアルバイトをしました。そうしたら、契約がおもしろいほど沢山取れる(笑)。自分には細やかなに気を配る接客業よりも、突破力を活かした営業の仕事が向いているのではないかと気づきました。
―就職活動の会社選びにも、その経験は活きたのでは?
そうなんです。人には得手・不得手の仕事があるんだと実体験で知ることができました。自分の得意なことがわかっていれば、就職活動でも自分に自信を持って取り組めます。
私の場合は、アルバイト経験から営業に興味を持ったこと、いずれ起業したいと思っていたので、それにつながる経験ができそうな企業を受けました。
特に、女性起業家である南場智子さん([なんば ともこ]氏/株式会社ディー・エヌ・エー創業者。現在は取締役会長。横浜DeNAベイスターズオーナー)の存在は大きくて、株式会社ディー・エヌ・エーから内定をいただいた時は嬉しかったですね。
自分のキャリアビジョンを大事に育てて
―成井さんが仕事をするうえで大事にしていることは何ですか?
常に相手の気持ちになって接することですね。 大きく2つあって、1つ目は社長として。自分のビジョンを語り、社員みんなのビジョンも聞くようにしています。仲間と一緒に目標を成し遂げることの大切さや喜びもありますから。
2つ目は、女性のマネジメントに関して。JIONは女性の組織ですが、いろいろな女性と接すると、自分のキャリアビジョンを持っていない方が多いんですね。
ですから、一緒に仕事をするうえでも、相手の気持ちになって、ゴールに向かって一緒に落とし込みをするようにしています。キャリアビジョンや夢を明確にしておけば、おのずとやるべきことが見えてきます。
―成井さんご自身のビジョンは何ですか?
『JION』を国内最大級の男性に必要とされるメディアにしたいですね。それには、先ほどお話した「社長としてビジョンを語る」ことは大事だと考えています。
そして、起業したからには上場を目指したいです。現在、経沢香保子さん([つねざわ かほこ]氏/2000年にトレンダーズ株式会社設立し、現在は株式会社カラーズ代表取締役)の39歳が最年少記録なんです。それにならって“女性最年少の上場社長”が目標です。
―今後のご活躍が期待されますね。では、最後に、これから社会に出る学生にメッセージをお願いします。
とにかく、変わっても良いので、常に夢を持ってほしいです。そのために、今何をすべきか考え行動することはとても大切だと思います。
自由な時間が多い大学生活を存分に活かして、自分の夢を叶えるための経験をたくさん積んでほしい。大学1年から3年生の過ごし方次第で、その先の将来が決まると言っても過言ではないと思います。
私も大学2年生の時に起業サークルに入ったことで、現在の仕事に行きついています。大学時代にいろいろな経験をして、自分に自信をつけてほしい。
仕事って、やりがいがあって楽しいものですし、自己実現に欠かせない大切な要素です。皆さんにもそのような仕事と出会ってもらいたいです。そのためにも、夢に向かってポジティブに進んでいってほしいと思います!
[取材・執筆・構成]yukiko(ユキコ/色彩総合プロデュース「スタイル プロモーション」代表) [撮影(インタビュー写真)・編集] 真田明日美