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東京オリンピック・パラリンピックを成功させよ!“スポーツビジネス”で世界を獲りにいく男

早稲田大学教授・内閣官房参与 平田竹男
平田 竹男(ひらた たけお)
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授
内閣官房参与
内閣官房東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部事務局長
日本スポーツ産業学会会長
日本陸上競技連盟理事
日本体育協会理事
日本プロテニス協会副理事長

1960年生まれ、大阪府出身。横浜国立大学経営学部を卒業した1982年、通商産業省(現:経済産業省)に入省。在職中、ハーバード大学J.F.ケネディスクールへ留学。帰国後、スポーツ産業の振興策を実施するなかで、日本サッカーのプロリーグ化に向け尽力するなど、1993年のJ リーグ発足に大きく貢献する。在ブラジル日本大使館一等書記官、資源エネルギー庁石油天然ガス課長など歴任後、退官。2002年、日韓サッカーワールドカップ招致を実現し、日本サッカー協会の専務理事に就任。日本女子サッカー「なでしこジャパン」やフットサルの普及など、スポーツ産業振興に尽力。2006年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授に就任。2013年、内閣官房参与に迎えられ、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局長となる。
※本文内の対象者の役職・所属はすべて取材当初のものとなります。

2020年の世界大会に向けて――舞台裏から“成功”を目指す

早稲田大学教授平田竹男さん 早稲田大で教鞭を執るかたわら、内閣官房参与として世界を飛び回る平田先生。この日の取材はリオオリンピック閉会直後の2016年8月24日に行われた。

―平田先生は現在、早稲田大学のスポーツ科学部・研究科教授として「スポーツビジネス」というテーマで研究・講義をされています。授業や生徒の特長を教えてください。

  スポーツと経済、スポーツと政治、スポーツと行政、スポーツとITなど、多角的、総合的な視点からスポーツが世の中に対しどのような関わり方をし、影響を与えているのかを学んでいます。

  勉強はもちろん、できるだけ生徒が前に出て発表する機会をたくさん設けています。そのせいかタフなメンタルを持つ学生が集まっているなと感じています。もともと学習意欲も高いですし、起業を目指す学生もいます。

  卒業生には、元プロ野球選手の桑田真澄さんや、パラリンピアンの佐藤真海さん(※)がいて、現在は講師としても来てくださっています。

※佐藤真海[さとう まみ](現姓:谷[たに])/早稲田大学在学中、骨肉種のため右足膝下を失う。陸上の走り幅跳び選手として2004年アテネより3大会連続パラリンピックに出場。2020年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会でプレゼンターを務め、そのスピーチは大きな反響を呼んだ。2014年結婚し、1児の母。2016年1月よりトライアスロンに転向。

―先生は2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部の事務局長として、特にパラリンピックの準備に注力されているとうかがいました。

  パラリンピックは、オリンピック、そしてサッカーワールドカップ(W杯)に次ぐ、世界第3位のチケット販売数を誇る世界大会です。日本でもパラリンピックは注目度、認知度も上がってきてはいますが、まだまだ全体的に“福祉”という意味合いが強く、障碍者を特別視する傾向があります。

  障碍者に対し同情の視線を投げかけるのは、いわば優位にある立場から見下ろしているのと同じで、障碍者やその家族にとって決して愉快なものではありません。そのような「心のバリア」を払しょくし、パラリンピックを“スポーツの大会”としてその魅力を楽しんでほしいと考えています。

  2020年までにバリアフリー環境の構築、障碍者を含めた災害対策、多様性を認める意識の向上を目指しあらゆる手立てを尽くすのが、私の仕事ですね。

―いっぽうで内閣官房参与も兼務されています。どのようなお仕事なのでしょう?

  簡単に言うと政治、行政、民間、スポーツを結びつけるのが仕事です。2020年に向け社会インフラをどんどん整えていく必要がありますが、そのためには政治経済、スポーツ双方に精通していないと難しいものです。

  僕は通産省(通商産業省。現:経済産業省)に20年、その後日本サッカー協会の専務理事を務めた経緯がありますから、その経験を活かして政界、行政とスポーツ界のパイプ役として動いているのです。

―多くのメダル獲得や社会の発展が期待される2020年の東京オリンピック・パラリンピックですが、平田先生が特に期待することは何ですか?

  僕はパラリンピックの成功こそ、2020年東京大会の成功だと思っています。満員の大観衆で各国の選手を魅了したいし、最高の雰囲気を醸し出したい。でも、パラリンピックは、いわば手段にすぎません。その先にもっと大切なものがあります。

  参加国の数やメダルの色も大切ですが、先ほども述べた通り、パラリンピックを通じて現在の日本社会の環境と、心に変化をもたらすこと。日本が人の多様性を受け入れる国になることが、最も重要だと考えています。

  障碍者、パラリンピアンだけではありません。お年寄りやケガをしている人、外国人、ベビーカーを押す母親……お互いを気遣い、助け合う共生社会を築き上げること。それを実現してこそ、真の意味で私の仕事が「成就」したことになると思います。

サッカーを通じて知った「世界の広さ」と「人の多様性」

内閣官房参与 平田竹男氏

―平田先生は小さいころからサッカーがお好きだったそうですね。中学生の時に、ある「3つの夢」を抱いていたと。

  「プロサッカーをつくること」「W杯を日本で開催すること」「サッカーくじ(toto)をつくること」ですね。ヨーロッパのサッカー雑誌を読んでいたことがきっかけでした。

  小学生がおばあちゃんと一緒にサッカーくじを買って何億円もの大当たりをしたとか、それまでスポーツの分野で全然奮わなかったフランスがサッカーくじをつくった時期から大躍進をし始めたとか……サッカーくじの収益は、スポーツの普及や強化に使われますからね。そんな仕組みを知って「日本にもあればいいのに」って思ったんですよ。

  サッカー選手になりたいと思ったことはありませんでした。それよりも、サッカーと人との間を取り持つような仕事がしたいと考えていましたね。

―3つの夢は、すべて実現されましたね。サッカーを続けていて、特によかったと思うことはありますか?

  サッカー部にはいろんな人がいました。勉強に興味のない人、卒業したら進学せず働こうと考えている人――人はそれぞれ事情や立場があり、考え方や価値観が違っているものなのだと知りました。

  そして何よりもサッカーを通じて、世界というもの、そして世界のなかの日本を知ることができたと思っています。

―サッカー以外に、学生時代で注力されていたことはありますか?

  横浜国立大の経営学部でしたが、経営だけでなくあらゆることに興味を持つようにしていました。大学に入って初めて猛勉強しましたね(笑)。

  特に意識的に「人と会う」ようにしていました。将来夢がある人、海外に出たいと思っている人を学部学科関係なく、大学中くまなく探しましたね。通学路の坂道で、人に声をかけたりして。この時に得た友人とは、一緒に通産省に入省したんですよ。

スポーツを“国益”とするために――すべてをやり切った通産省時代

早稲田大学大学院スポーツ科学研究科平田竹男教授

―最初の就職先に通産省を選んだのは、先ほどの「3つの夢」を叶えたいという想いからですか?

  カッコいい言い方をするとそうなんですが、その時はどちらかというと「大きな仕事がしたい」という気持ちのほうが大きかったな。自分を成長させたかったんです。そういう意味で、仕事は一生懸命こなしていましたね。

  一生懸命仕事をしていると毎年違う自分になっていく、「国益」に関わることをさせてもらっていることを実感できたし、とても充実していました。

―平田先生の通産省時代の実績としては、やはりJリーグの発足や日韓W杯の招致が印象的です。

  サッカーを始め、スポーツがもたらすものはまさに「国益」だと思っています。たとえば選手が海外のチームに移籍したり、試合で活躍したりすると、日本という国に対する認知度が上がるし、文化を知ってもらえます。サッカーの力というのは、とても大きいんですよ。

―Jリーグ発足に、平田先生はどのように関わったのですか?

  1989年4月に産業政策局サービス産業室補佐となりました。仕事は文字通りサービス産業の振興、そしてニュービジネスの育成です。これは中学生の時に抱いた夢を叶えるチャンスだと、そのままプロサッカーの設立、そしてスポーツの産業化へと動き出したのです。

  プロスポーツの先進国である欧米での調査結果を踏まえ、スポーツ産業はすなわち「公益的産業である」という理念を打ち出しました。それまでスポーツが政策として組み込まれたことがなかっただけに、「スポーツを公益性のある産業として発展させよう」という試みは非常に注目されましたね。

  詳しい経緯については私の著書『サッカーという名の戦争』にも書かれていますが、Jリーグ設立に向けて動くうちに、サッカーに限らずスポーツ全体の事案に携わるようになりました。そのご縁からスポーツ界の方々に多方面から助力をいただき、1993年にJリーグを無事開幕させることができたのです。

  Jリーグがその後、日本や世界に与えた影響は言うまでもないですが、特に企業スポーツではなく、スポーツによって地域への貢献に寄与するという考え方は、当時は画期的なことでした。

―通産省での経験で身についたことを挙げるとしたら何でしょうか?

  とにかく締め切りまでにコンテンツを完成させる力です。自分ひとりではできないことも多いので、ふさわしい人に頼むことの大切さも身につきましたね。

  通産省にいる間、アメリカのハーバード大に留学しました。そこでの経験もとても大きかったです。向こうでは、こちらが何か「やってみようよ」と言うと「sure, why not!(ぜひとも!)」って言ってくれる。最初から「そんなの無理だろう」なんて思う人がいない。僕の性格と大変合っていました。

  通産省とアメリカでの経験は、僕の人生になくてはならないものですね。

―通産省を20年勤められ、2002年に日本サッカー協会の専務理事に就任されます。通産省を去ることに、抵抗はありませんでしたか?

  僕自身は特にありませんでしたね。たぶん、通産省の仕事を思う存分やりきったからだと思うんです。Jリーグもつくって、W杯も開催して……僕ほど通産省の仕事を楽しんだ人はいないんじゃないかな(笑)。

  やりきったという実感があったからこそ「どこへ行ってもやり遂げられる」という自信がありました。

目指すなら一流でなく“超一流”を目指せ!

―2006年から早稲田大学教授として教壇に立つ平田先生ですが、教師という立場と、それまでの経産省やサッカー協会のお仕事と決定的に違う点といえば何でしょうか。

  若い人と接するようになったってことかな。それまでは自分より年上の方や立場が上の方、メディアの方とのコミュニケーションが中心だったので。年若い人とのコミュニケーションの取り方がまず難しいなと思いました。

―学生と接する上で、気をつけていることは何ですか?

  生徒の“ストロングポイント”を見るようにしています。そしてそれを著しくインスパイア(刺激、啓発)すること。うちのゼミ生を見ていると成長が早いし、1週間で別人のように変わる子もいますから、楽しいですね。

―仕事をするうえで、信念としていることがあれば教えてください。

  目指すなら一流じゃなく、超一流を目指すこと。たとえばW杯だって、出場を目指すだけじゃダメ。狙うなら“世界”を獲りにいかないと。そのほうが楽しいはずですから。

  東京オリンピックとパラリンピックも、歴代最高の大会にしたいと考えています。だから私も2020年で「自己ベスト」を目指します。今よりもいい研究をして、今よりも健康体でいたいですね。

平田研究室の現役ゼミ生に聞く!――平田竹男先生に教えられたこと

早稲田大学学生 塚脇愛理さん 塚脇愛理[つかわき あいり]さん/早稲田大学スポーツ科学部3年生、平田研究室第7期生。女子ラクロス部に所属。中学の時から陸上を続けていた。

―塚脇さんはどうして「平田研究室」のゼミに入ろうと思ったのですか?

  中学3年の時、自分の将来について考える授業がありました。そこで好きなスポーツのことを調べている間に、この研究室のHPを見つけたんです。平田先生のお名前やスポーツビジネスのことはそこで初めて知りました。

  中高一貫校でしたが、高校は早稲田大学の系属校である早稲田渋谷シンガポール校へ転校しました。ある日、サッカーのアルビレックス新潟シンガポールCEOの是永大輔さん(※)の講演会があり、お話を聞いて「こういう世界もおもしろいな」と感じたのも、ひとつのきっかけとなりました。

※是永大輔[これなが だいすけ]/アルビレックス新潟シンガポールチェアマン兼CEO。詳しくはこちら

  早稲田の推薦枠からスポーツ科学科を選び、平田先生のゼミがあるのを知って「入るならここだな」と。平田先生のことを知っていたのももちろんですが、スポーツ科学科のコースの中でもここは、世界を舞台にした研究ができる。そこが一番魅かれた部分です。

―塚脇さんから見て、平田先生はどのような方ですか?

  威厳があり堅いイメージが皆さんにはあるかもしれませんが、とてつもなくユーモアあふれる方です。学生とも真剣に向き合ってくださり、私自身とても親しみやすいです。

  人脈も広く、どこへ行っても平田先生の名前は知られているので、「先生と関わることによっていい意味で影響を受け、プラスになっている人が多いんだな」と感じます。

平田研究室7期生 塚脇愛理さん

―塚脇さんほか第7期生の研究テーマについて教えてください。

  「パラスポーツをより世の中に浸透させる」というものです。人と人との間にある様々な“壁”を壊し、心をひとつにさせるのがスポーツや音楽といった文化だと私たちは思っています。パラスポーツの普及を通して、私たちがその先駆けになりたいと考えています。

―毎年、研究テーマはゼミのメンバー全員で話し合って決めるのですか?

  そうですね、各学年ごとのゼミ生で話し合って決めています。でも今回のこのテーマについては継続性が大事だと思っているので、できれば今後も後輩が引き継いでほしいし、研究室以外の生徒の方にも手伝ってほしいですね。

―「大変だな」と思うことは何ですか?

  企画を進めていくと、いろんな企業さんとつながりができるのですが、そういった経験が少ないので、どのように学生らしさを持ちつつ、自分たちの意見を表現していくかがまだ難しいな、と感じることはあります。しかもこちらは「早稲田大学の学生代表」になりますから……。でもそのぶん、やりがいはすごくありますね。

―自分の中で変われたこと、身についたことはありますか?

  もともとスポーツビジネスを学びたいと思って入ったのですけれど、平田先生はよく「スポーツにとどまるな」とおっしゃるんです。もっと広いところへ目を向けろと。

  それで最近はいろんなことに興味を持つようになって、留学を考えています。海外で日本にいる以上の友達を作ってくる予定です(笑)。

―ほかに、平田先生のお言葉で印象に残っていることはありますか?

  「『今やりたい』と思ったことは率直に、迷わずやれ」ともよくおっしゃいますね。平田先生を見ていても、ウジウジ考えず、すぐに行動に移すことの大切さはよく感じます。

―企業とのやり取りも多いとのことですが、塚脇さんは社会人に対してどのような印象を持っていますか?

  学生に対して、真剣に向き合ってくださる方が多くて驚いています。自分たちが思っている以上に身近なんだって思いました。

―最後に、未来への意気込みをお聞かせください。

  昔から両親に「世のため、人のためになる人になりなさい」と言われて育ちました。そのため私には、小学校の時から自分と自分に関わるすべての人を笑顔にできる人間になる、という大きすぎる人生計画があります。

  それを達成するためにも、大学生の今できることである研究室での活動、部活動などに全力でぶつかって、限界をつくらず、次のステップにつなげていきたいと思います!

早稲田大学 大隈重信像 <早稲田大学 早稲田キャンパス>
〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1-6-1
JRまたは西武新宿線高田馬場駅より徒歩約20分
東京メトロ東西線 早稲田駅より徒歩5分

[取材・執筆・構成・撮影]真田明日美
[平田竹男先生 取材場所]内閣官房参与室

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