自分自身の “あり方”を確立しておこう
―ブレない軸を見つけておけば、行動も明確になる―
- 小林 伸輔(こばやし しんすけ)
- 株式会社うるる 取締役
1980年、北海道生まれ。株式会社アルバイトタイムスに入社し、広告系営業職として多くのトップセールス賞を獲得。2007年に株式会社うるる(本社最寄り:勝どき)に入社し、取締役兼NJSS事業部部長に就任。現在は取締役兼CGS開発部部長。本業以外でも、学生たちへの営業講習会なども手がけている。
“在宅ワーク”が当たり前になるような世の中へ
―まずは、うるるの事業内容について教えてください。
我が社は「在宅ワークのスタンダード化」をビジョンに掲げています。クラウドソーシングというものは、ここ数年で一気に認知度が高まってきたと思いますが、僕らは2007年から始めていて、日本で初めてクラウドソーシング事業を始めた会社なんです。その主軸となっているのが在宅ワークマッチングサービス「shufti(シュフティ)」。在宅ワーカーさんと企業が直接やり取りできるプラットフォームです。
クラウドソーシングのプラットフォームには、たくさんのワーカーさんと企業が集まってきて、自動的に仕事の受発注が行われていきますが、安定的に仕事があり続けるかというと、現状そういうわけにはいかない。そこで、僕らが考えたのが、CGS(Crowd Generated Service)です。「shufti」に集まるワーカーさんたちの能力を活用した様々なサービスを横展開しています。
そのひとつが入札情報速報サービス「NJSS(エヌジェス)」です。入札というのは、官公庁や外郭団体、自治体が公示する建設・工事や人材派遣といった情報に対して、民間企業が見積りを提示(入札)すること。そこから一番条件のいいところを選んで落札するという仕組みなのですが、入札案件は全国5,500以上の機関から出されています。
案件情報は各機関のウェブサイトに記載されていますが、それらを「shufti」のワーカーさんが目検でチェックし、ひとつのデータベースに集約しているんです。そうすることによって、入札を行う会社の営業の方たちは、これまで毎日自分で各サイトを巡回して収集していた情報を「NJSS」を利用することで集めることができます。もちろん、検索もできますから、すごく効率的なんですよね。
もうひとつ、「園ナビフォト」というCGSもあるのですが、これは幼稚園・保育園の写真販売システムです。最近は、運動会などのイベント写真をデジタルで購入することができるようになってきましたが、サムネイルが小さいため、お子さんがどこに写っているのかわからず、選ぶのが大変という問題があるんですよ。「園ナビフォト」では、お子さんの写真を親御さんに提供してもらって専属のワーカーさんに共有し、どの写真に誰が写っているかをチェックし、タグ付けをする。すると、お子さんの名前を選択するだけで、お子さんが写った写真の一覧が出てくるんです。
こういったワーカーさんの特性を活かした横展開のサービスを今後もどんどん拡大していこうと思っています。
―現在、「shufti」の登録ワーカーさんは何名くらいいらっしゃるんですか?
13万人です(2015年5月現在)。毎月9,000名ずつくらい伸びていて、ここ1年では特に伸び率が高くなっています。
その要因としては、やはりほかのクラウドソーシングサービスが出てきたことによってクラウドソーシングがスタンダード化してきたというのがあると思います。もうひとつ要因を挙げるとすると、ほかのクラウドソーシングサービスがデザインやプログラミングといった比較的知識や経験が必要な仕事が多いのに対して、「shufti」は主婦×事務という領域に特化しているんです。
事務の仕事はデータ入力やライティングなど、スマホやタブレットでもできるものが多いんですよね。そこで僕らはクラウドソーシング事業を行っている会社がどこもやっていないアプリを開発し、2014年にリリースしました。そのことによって、今までパソコンでしかできなかった仕事が電車に乗りながらもできるようになった。電車に乗りながら電車賃が稼げるようになったんです。それで一気に会員数が倍になりました。
仕事を受注するワーカーさんは、サービス名の通り主婦層が6割を占めますが、アプリリリース後は、学生やシニア層のワーカーさんも増えてきています。
部活やアルバイトに打ち込むも、目標がなかった学生時代
―小林さんの学生時代について教えてください。
僕は小学校から大学までずっと野球部に所属していたので、野球中心の生活でした。大学生になってからはアルバイトもしていて、大学1年生の時はコンビニで、2年生は家庭教師、3、4年生は居酒屋で働いていましたね。居酒屋でのバイトは就活の時期とも重なっていたので、バイトのメンバーと情報交換をしたり、プレゼンテーションの仕方を研究したりしていました。でも、僕は一度、途中で就活を辞めてしまったんです。大学4年生の秋くらいから再開をしたんですけど。
―就職活動中、具体的にやってみたい仕事というのはありましたか?
なかったんです。人と話すことが好きなので、なんとなく営業職かな?とは思っていましたが……。僕は今、大学生向けにセミナーなどでお話をさせていただく機会があるのですが、いつも「やり方ではなく、あり方をしっかり固めよう」という話をしているんです。でも、お恥ずかしながら、当時の僕はビジョンも理念も何もない学生だったんですよ。いつも漠然としていましたし、目先のことしか考えていませんでした。
なので結局は、就職課の掲示板に貼ってある求人情報のなかから探して、千歳にある日本航空専門学校という航空整備士の養成学校の求人に応募し、そこの広報として働くことになりました。
友との約束を果たすため、トップセールスの座を目指す
―そちらで働いたあと、アルバイトタイムスに転職をされますよね。その経緯は?
それにはいろいろな経緯があるんですよ。4名いる、うるるの創業メンバーのうちの2名は、僕の高校の同級生なんです。そのひとりである副社長の桶山(桶山雄平[おけやま ゆうへい]氏)とは特に仲がよくて、高校時代から「いつか東京に出て、ビッグなことをやりたいね」と話していました。その後、僕は北海道の大学に、桶山は東京の大学に進学して、それぞれ就職したんですが、ある時、桶山ともうひとりの同級生が東京でうるるを立ち上げることになり、そのタイミングで僕に連絡をくれたんです。当時、僕は新卒2年目くらいだったのですが、少なくとも3年間は新卒で入った会社で働きたいという想いがあったので、それまで待ってくれという話をしました。
その話の通り、3年が経った時に東京に出てきたんですよ。そのままうるるに入社する予定だったのですが、桶山と話した時に「この先ずっと一緒に働くんだから、いきなり俺がうるるに入ったらおもしろくないかもしれない」という話になって。「だったら、期間限定で別の会社で働いて、新しい人脈や実績をつくってから1年後に合流しよう」と。それでアルバイトタイムスに入社することになりました。
―アルバイトタイムスへは期間限定を前提とした入社だったのですね。
そうです。あり得ないような話なのですが、面接の時点で「僕は、1年後にうるるという会社に入ります」と言って受けていたんです。「1年限定で入社させてください。その1年間で全国トップの営業成績をとりますし、必ず御社に貢献します」と。普通は面接で「1年で辞める」なんて話はしませんよね(笑)。それでもその時の転職活動で受けた6社すべてで内定をいただけて、一番快くOKを出してくれたのがアルバイトタイムスでした。面接で宣言した通り、入社8ヶ月目に営業成績で全国トップになったんです。
―トップ営業になるために、どんな工夫をされたのですか?
おもに3つの要因があったと思っています。ひとつは、何の知識も経験もなかった僕を育ててくれた上司の存在です。営業でトップをとると宣言したものの、僕はそれまで営業職も求人メディアの仕事も経験したことがない。それに加えて、北海道から出てきたわけですから、東京の地理も全くわからないんですよ。そんな僕を、ゼロから育ててくれたのが当時の課長なんです。その方の存在は、本当に大きかったですね。
2つ目は「特性と価値」という考え方。求人情報のフリーペーパーを扱っている会社なので、営業は当然、発行部数や掲載枠の価格などの商品のスペックを覚えなければいけません。ほとんどの営業担当は、その特性や知識は頭のなかに入っていても、その商品が持っている特性を価値としてお客様に提供しようというマインドを持っている人が少ないんですよ。僕は、お客様が求めていることに対して、媒体の特性を価値に転換して提案すれば喜んでもらえる、という点に気づけたんです。それを営業にも活かすことができました。
3つ目はターゲティングを意識したこと。単発の求人よりも、慢性的に人手不足の業界に特化して営業をしたほうが効率的だと考えました。今はまた違うのかもしれませんが、当時は警備やビルメンテナンスの仕事というのは常に人が足りていない状況でした。なので、そこを中心に何周もアポに回って事例をつくり、大きな会社に出稿してもらえて結果を出すことができました。
当然、営業成績で1位をとるためには、普通のことをやっていたら到達できませんよね。僕は、“真似ぶ”ことが得意なんです。人の真似をしながら自分のものにしていく。僕にとって、一流の営業は生命保険の営業だったので、あえて数社の営業マンにアポをとって営業をしてもらったこともあるんです。そこで手法を学んでいました。
社員とともに、“見たことのない景色”を見るために
―その後、桶山さんと約束した通り、うるるに入られます。入社後はどんな事業をご担当されたのですか?
僕が入社した時は、データ入力やスキャニングを中心としたBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)がメイン事業だったので、その営業を担当していました。その後、「NJSS」の企画が考案されたタイミングで「NJSS」事業にシフトし、「NJSS」の立ち上げから関わって。それから、新規事業の立ち上げ、「shufti」事業の拡大と、幅広く様々な事業に携わっていますね。
今は、新規事業開発室でCGS事業をより発展させるために努めています。取締役でもあるので、こうしたインタビューなどを通して、会社のことを対外的にお伝えしていくこともひとつの役目ですね。
―うるるの今後のビジョンについても教えていただけますか?
まずは、上場ですね。そこは必ずやり遂げたいと思っています。あとは、海外展開。今もインドネシアに子会社があるんですが、「shufti」も「NJSS」も海外に横展開ができるビジネスモデルなので、よりスピーディーに海外展開を進めて行きたいと考えています。
よく人生を山登りに例えるじゃないですか。我々の歩みを山で例えると、これまで登っていた山は北海道の札幌市にあるモエレ沼公園にある標高62mのモエレ山だと思うんです。そこは階段もあるし、手すりもついている山なんですけど。でも、これからは誰も登ったことのない山に登りたいと思っていて。火星にオリンポス山っていう、標高25,000mくらいある山があるんですけど、そこに登るような気持ちで前進していこうと思っています。誰も見たことのない景色をうるるのみんなで見てみたいですね。
自分が常に成長しながら、人の成長に貢献したい
―小林さんは仕事をするうえでどんなことを大切にされていますか?
僕の理念は「成長貢献」なんです。人の成長にとことん貢献する人生を送りたいと思っています。ということは、その分、自分の背中を見せなくてはいけないので、自分自身が圧倒的な成長をしなければならない。その意識はすごく持っています。当然、会社としては事業の成長も大事なんですけれども、まずは人の成長ですね。
あとは、会社として「ホスピタリティにあふれている」と評価をいただくことが多いので、「おもてなし」の文化を大事にしているんです。サービスを通じても、対面であってもメール、電話であっても、ホスピタリティをベースに接するということを大切にしています。
―最後に、就活中の大学生、仕事に対して悩んでいる学生にメッセージをお願いします。
「やり方」というのは日々学んでいけるものなので、学生時代には「あり方」を固められるといいかなと思います。誰のために、何のために、どうして自分は生きているのか。なんで自分はがんばらなくてはいけないのか。それは家族のためなのか、友達のためなのか……とか、どんなことでもいいと思うんですけど、自分のなかの「軸」をしっかりとつくっておくと、就活の時にはすごく役立つはずです。そういったことを、自分ひとりで考えるのではなくて、友達とディスカッションしながら考えてみるといいですよ。
唯一無二の人生で、一度きりの学生生活じゃないですか。なので、今しかできないことをやってほしいなと思いますね。僕には機会がありませんでしたが、留学もおすすめです。外の世界を見て、どんどん視野を広げていってほしいと思います。
[取材・執筆・構成]渡辺千恵 [撮影]真田明日美