「本当の人脈」は、真剣に取り組んだ先にある
―おもしろそうだと思ったら貪欲に、一生懸命に―
- 佐藤 真希子(さとう まきこ)
- 株式会社サイバーエージェント・ベンチャーズ ベンチャーキャピタリスト
清泉女子大学文学部国文学科(現:日本語日本文学科)卒業。新卒第1期生として株式会社サイバーエージェント入社、インターネット広告事業本部に配属。同社営業部門の初の女性マネージャー。アカウントプランナーとしてネットマーケティングの企業戦略立案や実行支援に携わる。2002年ベストプレイヤー賞を受賞。2006年より株式会社サイバーエージェント・ベンチャーズ(CAV/本社最寄り:新宿)でベンチャーキャピタリスト(VC)として活動。2008年に重松大輔氏(現:株式会社スペースマーケット代表取締役社長)と結婚。現在、3児の母。VCとして国内のベンチャー企業への投資活動、経営支援業務を担当。
未来をつくる人を応援する「ベンチャーキャピタリスト」という仕事
―まずは、ベンチャーキャピタリストとしての仕事の説明をお願いいたします。
ベンチャーキャピタリスト(VC)の仕事は、起業家の実現したい世界に対して、資金を援助するだけでなく、その会社・事業が成長するために支援をしていく、起業家の黒子的な役割です。みなさんがご存じのAppleやGoogleが飛躍した背景にVCの存在があるように、新しい産業を育てるやりがいのある仕事です。
―佐藤さんの現在の仕事量はどれくらいですか。
現在は13社担当しています。2006年からベンチャーキャピタリストとして活動して、今まで20社以上に投資をしています。
―担当している企業のジャンルはありますか。
これからの時代は多様性がより問われ、個性を持った人やモノ・空間やサービスが輝く時代だと考えています。そういった意味で個人の価値が高まり、人が輝いていけるような未来”につながるビジネスは好きです。また、3人の子どもを持つ親として、これからの時代を見据えた教育や、女性の活躍の場を応援することにも興味があります。
実はベンチャーキャピタリストの業界は、ほとんど女性がいないんです。なので、女性ならではの視点や共感できる、それでいてスケールさせられる事業に出資していきたいと思っています。
―佐藤さんならではの視点で出資を決めた例を教えてください。
キャリア女性のための会員制転職サービスを行っている株式会社LiB(リブ)を担当しています。男性はキャリアをどんどん積んで、上を目指すことが可能ですが、女性は結婚や出産など環境の変化が大きいので、男性に比べてライフステージによって働き方も変わります。だから、キャリアカウンセリングが難しい。
LiBが提供する「LiBz CAREER」は、女性のライフステージへの理解や、女性の転職実績の多いエージェントに無料で複数人に相談することができ、さらに女性の活用に積極的な厳選した企業から直接オファーをうけることが可能な転職サービスです。
本来、仕事は“楽しいもの”だと思うんです。誰でも、働きやすい環境や能力が認められることによって充実感や楽しさを得られます。会社を立ち上げた直後の松本社長(松本洋介[まつもと ようすけ]氏)にお会いした際、まさに私が考えていたような「仕事もプライベートも頑張りたい女性が、仕事を通じて輝き続けられる世界を実現したい」という想いを聞き、これは私が担当するべきだと思い、出資させていただきました。
―現在の仕事のやりがいは何ですか。
私がこの仕事をやっている意味や醍醐味は、よりよい未来をつくれるところだと思っています。母親として“子どもたちの未来のために自分に何ができるのか”を考えた時、子どもたちがワクワクするような社会を実現していきたい。
ベンチャーキャピタリストは、こういう世界を実現したい!という起業家をどこまでも信じて、起業家の黒子として、つらいことも嬉しいことも一緒に共有しながら切磋琢磨していきます。起業家は嬉しいこと・楽しいことよりむしろ、つらくて孤独な事のほうが多い。それでも自分の実現したい世界を信じて、仲間と一緒にがんばるんです。
ベンチャーキャピタリストも、起業家と同じ視点でみているので、私自身も眠れないぐらい不安になったり、夢にまで出てきたり、胸が苦しくかったり、悔しくてつらくて涙することもあります。でも、そんな起業家やその会社にかかわる人達が成長し、チャレンジした結果、その事業や会社が社会的にインパクトを持つことで、よりよい未来ができていくのが楽しいところです。
新卒一期生で飛び込んだ、熱い思いを形にするベンチャービジネス
―新卒一期生として株式会社サイバーエージェントに入社されましたが、そのいきさつは?
とにかく就職活動は苦労しました。なかなかこの会社で働きたい!と思う会社に出会えなくて。一生懸命仕事をしたかったですし、つらくても充実していてやりがいのある仕事をさせてもらえる、熱い想いを持った人達がいる会社はどこにあるんだろうと思っていました。
そういう意味で、どの会社の面接でも、質問時間に必ず「この会社に入ってよかったと思いますか?」と聞いていました。ひとりでも仕事が楽しい!と思う社員がいる会社がいいなと思っていたからです。ところが、大企業の方は、誰ひとりとして自信たっぷりに即答してくれなかったんです(笑)。
そこで自分より情報を沢山もっている男友達に「熱い思いを持った人たちがいた会社はどこだった?」と聞いてまわりました。そして行き着いたのが、創業1年目のサイバーエージェントだったんです。
―サイバーエージェントの人たちには、佐藤さんが求めていた“熱さ”があった、と。
熱かったですね。説明会で藤田(藤田晋[ふじた すすむ]氏/株式会社サイバーエージェント代表取締役社長)が、自分の会社がどのようになっていきたいのかを熱く語っていました。とにかく藤田のビジョンが大きかった。
それに影響を受けて、面接では私がどういうことに生きがいを感じてきたのか、どう働いていきたいのか、どういうことを実現したいのかを熱く伝えていたら内定をいただきました(笑)。
―2000年に入社されて、インターネット広告の部署に配属されましたよね。どのような気持ちで仕事をされていたのですか?
内定をもらった99年の5月頃はまだ25名くらいの会社でしたが、2000年3月に東証マザーズに上場し、毎月すごい勢いで社員が増えていきました。
いっぽうで、インターネット広告の創世記だったこともあり、経験の浅い新卒である自分が仕事をすることによって、市場の拡大に貢献できていることへのやりがいを感じていました。新卒同期の売上がインターネット広告市場の数%を創っていると考えたりすると、ワクワクしたのを覚えています。何にも代えがたい経験です。
ベンチャー企業で働く意味って、「自分自身がつくっていける」ことだと思っています。自分の働きや成長が、会社の成長に大きく貢献し、一緒に切磋琢磨できる仲間をつくれる。私にもサイバーエージェントの同期がいますが、15年たった今も会うたびに刺激をもらっている、私のかけがえのない財産になっています。
―ベンチャーキャピタリストとして活動するきっかけは何だったのですか?
私は、ベンチャーキャピタリストという職を知らなかったのですが、マネージメントの仕事をやらせてもらうようになって数年が経った時、サイバーエージェントでの経験を基に、もう一度ベンチャーでチャレンジしたいと思うようになっていたんです。そんな時、「サイバーエージェントでもベンチャーキャピタルを始めたんだよね」と上司から教えてもらい、すぐに異動することになりました。
人に話すことで道が開けるんです。この経験から、実現したいことがある時には、自分が尊敬し、信頼している方に相談をするようにしています。自分に強い想いがあると的確なアドバイスをくれる人や助けてくれる人に出会う。「引き寄せの法則」って本当にあるんですよね。口に出すことや、言葉の力って大事だと感じています(笑)。
効率を追求した仕事意識、仲間との信頼関係。今につながる学生時代
―大学時代はどのように過ごされていましたか?
チアリーディング三昧でした。休みの日には海外旅行をして、すき間時間にアルバイトをしていました。アルバイトは、好きな海外旅行のためにやっていたようなものです。お弁当屋の惣菜部、店舗の清掃、結婚式場の配膳など数多くやりましたよ。
―アルバイトから得たことはありますか?
いろいろとやっていたのでビジネスの裏側が見えました。お弁当屋の惣菜部では、ひたすらピーマンの細切りをする日も(笑)。実際にやってみると仕事の効率を考えるようになるんですよね。レジに行けば売れ筋がわかるため、次に必要になる食材の準備もできます。お弁当の中身も惣菜の組み合わせで当然ですが売れ行きが変わるんです。効率やマーケティング、接客、セールストークなど実体験で学べました。
通信販売会社の電話オペレーターのアルバイトも今の仕事に活きています。カスタマーサポートに電話がかかってくると、どういうことがクレームになるのか、売れる商品の情報、お客様が困っていることがわかります。インターネットサービスでもカスタマーサポートが重要なことも多く、当時の経験からオペレーションの構築やサービスの改善方法、CS(Customer Satisfaction/顧客満足)の大事さを伝えています。
―では、チアリーディングで得たことはありますか?
チアリーディングは絶対信頼のなかで競技をするスポーツです。仲間が上に乗ってくるので信頼がないと落ちて怪我をします。2.5段の層になるのですが、私は真ん中の層。一番上のトップを支えるポジションを多く任されていました。
お互いの信頼感や支えている仲間がいてこそ、ひとつの技が完成し、トップの人が輝きます。皆で支え合っているため、誰かひとりでも欠けたら成り立たないんです。ベンチャーキャピタリストという仕事も、私が起業家を支えて、起業家やメンバーの方とチーム一丸となって夢を実現していく点で共通していますね。
働く女性として、母として。仕事と家庭の両立を考える人に伝えたい。
―第3子を出産して職場復帰をした現在、仕事と家庭の両立について、旦那様である重松大輔氏([しげまつ だいすけ]/株式会社スペースマーケット代表取締役社長)とはどのようなことを話されていますか。
仕事と家庭の両立っていうと、何でも完璧にやらないといけないと思いがちですが、自分ひとりでやろうと思ったら壊れてしまう。だからやらなくてもよい部分はアウトソースをしたり、私の母や義理の母などもサポートをしてくれるので、無理のないように家事と仕事をこなしていこう、と考えるようになりました。
旦那とはどう生きていきたいかを話し合った際に、こうなっていたいねという共通のゴールイメージを共有しています。そこに向けて今、彼は起業をして、私は3人子どもを産んで……人生の先輩たちが私たちにしてくれたように、チャレンジする人を夫婦で応援しつづけていけたら素敵だなと思っています。
おもしろそうなことは貪欲に。そこから道が開ける。
―これから社会で働く学生へアドバイスをお願いできますか。
“おもしろそうだと思うこと”には貪欲に突っ込んでいってほしい。そして、やるなら真剣にやる。中途半端では何も得られません。相談する相手も、自分よりも目線の高いところにいる人を選ぶことです。学生の時は世間が狭いので身近な人に話す傾向にありますが、ヒントがほしかったら目線の上の人に相談すべきです。
―学生時代のコミュニティは限られると思うのですが、目線の上の人に出会う場所はどのように見つけたらよいと思いますか。
今はインターネットもあるので情報はあふれています。自分の興味のあるコミュニティやイベント、ポジティブな人たちが集まる場所に行ってみることです。
気をつけたいのは、インターネット内のコミュニティで終わらないこと。リアルなところに行くことが大切です。インターネットで情報を得て、リアルな場所で人と出会う。ホットスポットに行って一生懸命取り組んでいると、本当の人脈ができます。人脈はつくろうと思ってつくれるものではありません。本当の人脈こそがいずれ仕事で活きてくるので、アルバイトでも何でもよいから本気でやることが大事です。
人との出会いや働くことは、本来とっても“楽しいこと”なんです。だから一生懸命、考えながらやっていれば、必ず得られるものはありますよ!
[取材・執筆・構成]yukiko(色彩総合プロデュース「スタイル プロモーション」代表) [撮影] 真田明日美